自家焙煎というマイウェーブ

コーヒーの自家焙煎を店のキッチンで本格的に再開した。
自分の場合、個人的なコーヒー熱というのはわりと波があって、高まるときはすごい勢いでのめり込むし、そうでない時は比較的冷静でいられる。そうした情熱の矛先は、エスプレッソマシンについて徹底的に調べ上げることに向けられる時もあるし、コーヒー豆グラインダー選びに対してだったり、エアロプレスの抽出テクニックだったり、廃番になったサイフォンの入手だったり、水出しコーヒーの味わいの着地点を見つけることだったり……と、さまざまだ。
そして、今回の自家焙煎。きっかけは、京都・左京区の錦林車庫前近くに店を構えるインディペンデント系書店「ホホホ座」で、同店が編集・発行する一冊の本を手にしたことだった。

『焙煎家案内帖(京都編・一)』。喫茶店好きの巡礼地の一つ「六曜社」の奥野薫平さんや、「Kirin Diary vol.5」でも取材させていただいた「Hifi Café」の古川孝志さん(連載「喫茶 山鳩荘」)ほか、計5人の焙煎に対する哲学や精神論をまとめ上げた小さな本だ。
喫茶の都・京都の町に根を張った喫茶店の店主として、群雄割拠の中で鎬を削っている彼らだから、焙煎機へのこだわりと思い入れは当然ながらハンパないわけだが、意外なことに、小型の手回し式サンプルロースターを使って、みたいなアナログで身近な話も出てきて、ならば我も?と思ってしまった次第。
じゃあ何を使って焙煎したものか。今回は相当調べに調べ、迷いに迷った挙げ句、日用品&ワイン喫茶を謳うKirin Store的にふさわしかろうと思われたのが、この伊賀焼の焙烙(ほうろく)だった。民藝と日用品の精神である。
あまり説得力はないかもしれないが、これなら直火ほどには豆に火があたって焦げることはないし、焙烙の中で熱対流が起こって、ハンドローストといえども、“半熱風式”の焙煎機に近い効果がひょっとしたら得られて炒りムラも少なくなるのではないか、という目論見があった(科学的根拠はまだない)。

そういえば、そうだった。
フリー・ジャーナリストの嶋中労さんから、コーヒー焙煎を巡るノンフィクションともフィクションともつかぬ、それはすこぶる筆が冴え渡った『コーヒーの鬼がゆく』という本を、もう7年も前にいただいていたのだった。

もうこれを再読し始めたら最後(とにかく読んでみてください)。本書に登場するコーヒー焙煎にとり憑かれた「鬼」のような店主に自分がなったかのごとく、来る日も来る日も納得がいく焙煎を求めて(すなわちゴールはない)、焙烙を振る日々が始まってしまったのだった……。
はい、そしてついにネルドリップまで始めました。

この間、いろいろ見聞を広めるべくネット上も街中もウロウロしてみた結果、目からウロコだったのは、ハイアマチュアだからこその視点が新鮮なOnimaga(オニマガ)の「手網焙煎入門」の記事と、駒場東大前、というか、東大の駒場キャンパスを部外者じゃないフリをして構内をずんずんと突っ切った先にある「THE COFFEESHOP ROAST WORKS」で、アメリカンプレスで淹れていただいた、ほんとうにグリーンアップルの味がする「ニカラグア ラ・アンブリアシオン農園」のCOE(カップ・オブ・エクセレンス)の一杯。自家焙煎のビッグウェーブは、果たして引いていくのかどうなのか?
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